大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和24年(行)5号 判決

原告 松村定一

被告 宇治町議会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、請求の趣旨

原告訴訟代理人は「被告宇治町議会が昭和二十三年十二月二十五日原告に対してなした議第五十六号議員松村定一を懲罰に付し宇治町会議員を除名するとの議決はこれを取り消す、訴訟費用は被告の負担とする」旨の判決を求めた。

三、事  実

原告は被告議会の議員であるが、被告議会は昭和二十三年十二月二十五日、原告が昭和二十三年十一月十五日頃「宇治町の皆さんへ」と題する印刷物(判決末尾添付「宇治町の皆さんへ」と題するものと同様の印刷物)を、三、四十枚宇治町内の一部の知人に頒布し、又その後右印刷物と同一内容の掲示を宇治町内の二ケ所にした行爲は宇治町議会を侮辱したものなるのみならず、議員を誹謗し、議会の品位を傷け、又議会の体面を汚したものであるとして、地方自治法第百三十四條、宇治町会会議規則第百四十三條により原告を宇治町会議員より除名する旨の懲罰の議決をした。しかしながら、右議決には次の様な違法がある。

一、原告が右の様な印刷物を頒布したり、又右の様な掲示をしたのは、被告が昭和二十三年四月二十三日原告に対し、被告議会に一ケ年間出席を停止する旨の議決を爲し、原告がこれを不服として京都地方裁判所に右議決取消の訴を提起し、次で右議決の執行停止の裁判を求め、同裁判所に於て執行停止の裁判があつたので、原告は宇治町民の要望により、右事件の経過報告、兼弁明の意味で右の様な印刷物を百枚位作成して頒布し、又之と同一内容の掲示をしたのであつて、右印刷物の内容は事実其まゝを記載したものであり、專ら公益擁護を図らんとする原告の公僕的老婆心から出たものであつて、被告議会を侮辱したり、議員を誹謗したり、又被告議会の品位を傷けたり、体面を汚す目的で作成したものでないから右懲罰の議決は違法である。

二、昭和二十三年十二月二十五日被告議会開催せられ、本会議の議案全部可決終了後、議席十五番の新庄義信議員から右印刷物の内容や、右掲示に関し、原告に対し釈明を求めたので、原告は、ビラ貼紙については責任をもつと答へ、判決の月日の答弁と効力につき解釈をなし、ビラの内容の質問に対し、個別に名を云えと云われるがそれは遠慮する、具体的に申上げない、皆様が御考えになればよいと思う等と答弁した所、議席十一番須知喜一郎議員が懲罰動議を提出し、小島一三、岡田宗太郎議員の賛成を得て、動議成立したのであるが、懲罰提案理由書には「新庄議員の松村議員に対する質問に対し本会議に於て釈明せられるところは其何れについても釈然と致し兼ねる事を遺憾とするものである、即ち去る九月十四日発表された「宇治町の皆様へ」と題するビラに記載された事実を松村議員は本会議に於ても尚眞実なりと主張し之を全面的に取り消さないのみならず、加之議員に対しなしたる侮辱の言辞乃至誹謗に付ては議員として之を許すことは出來ない。

此の如きは單に当町会の議員を侮辱するのみならず我々議員によつて構成されたる町会の品位を傷つけ体面をよごすも甚しいと思料致します。

依て宇治町議会会議規則並に地方自治法第百三十四條の定める所により議員松村定一君を懲罰に付すべきものと本議員は認め動議を提出するものなり」と、記載してあるから、此提案理由書記載以外の行爲に対し懲罰を科することはできないのに、被告議会は前示の様に右以外の行爲に対し、懲罰を科する旨の議決をしたのみならず、懲罰動議の提出は懲罰に附せらるゝ事犯に関係ある者に限るのに、事犯に関係ありと云えぬ須知議員が動議を提出したのであるから、右懲罰の議決は違法である。

三、又地方自治法第百二十九條、第百三十一條、第百三十二條乃至第百三十四條、宇治町議会会議規則第百三十一條、第百三十二條、第百三十五條第三項によれば、懲罰規定は議会又は委員会の会議の秩序保持を目的として制定せられて居るのであつて議員の行動中、議会又は委員会の会議に於ける行動のみが懲罰の対象となるもので議会又は委員会の会議外の行動は其対象となるものではない。然るに、被告は前示の様に全く議会又は委員会の会議外の行動を懲罰事犯に該るとして懲罰の議決をした違法あるのみならず、仮に議会や委員会の会議外の行動でも懲罰の対象となるものとしても、宇治町議会会議規則第百三十五條によれば懲罰の動議は事犯のあつた翌日迄に之を提出しなければならない旨明定して居るのに、右の様に須知議員の動議提出は原告の印刷物頒布や掲示があつた後一ケ月以上経過した、昭和二十三年十二月二十五日開催の宇治町議会に提出せられたものであるから、右規則に違反し、右議決は違法である。

右議決には以上の様な違法があるので、右何れの理由からしても取消さるべきものであるが、仮に右列挙の理由によつては、取り消されずそのまゝ存続するものとすれば、

一、議会の多数派議員は自己の意に満たない少数派議員の議会や委員会の会議外に於ける私的行動までも詮索、追及し、之に対し懲罰を科し、以て議員たる資格を奪ふことができ、多数派議員による一党專制の反民主的フアツシヨ政治に逆轉し、日本の政体である議会主義政治型態を根本的に破壞することになり、又

二、議員が所属議会の会議外に於て自己の政見を発表し、他の議員の政策を批判し、以て国民大衆に訴へることは公選議員の当然の行動であるのに、その批判内容が所謂與党派乃至多数派議員の無策、無定見を暴露する結果となつた場合、夫を以て議員を侮辱したとか、議会の品位を傷けたとして、之に懲罰を科し得ることゝなり、輿論政治である現在日本の政治型態はその根底から覆さるゝことになる。

三、又元來除名処分なるものは、当該議員に対する加罰と云わんよりは、寧ろ選挙民に対する政治関與権の剥奪であるから、原告に印刷物の頒布や之と同一内容の掲示をした行爲があつたとして、選挙民に対する政治関與権を剥奪することゝなり、主権在民の日本国体に対する侵犯となる。

右の様な結果を招來する議決は結局違法であるから取消さるべきものである。

以上の理由により、原告は右議決の取消を求むる爲め本訴に及んだと述べた。

被告の右懲罰議決を取消すことは、公共の福祉に反するとの抗弁に対し、違法の議決は之を取消し、正常な状態に復することこそ、議会がその信任を得る所以であり、又眞に公共の福祉に副うものであると陳述した。(立証省略)

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、本案前の答弁として原告の主張は要するに、被告議会の議員の言動が懲罰事犯として懲罰処分の対象となるや否やの判断を求めるものであるが、斯ることは被告議会自体の判断に俟つべきもので、司法裁判所に訴及して、その判断を求むべき筋合のものではない。何となれば地方公共団体の議会の懲罰権は当該議会に與へられた規律保持の自衞権であつて、その範囲に於ては、当該議会の自由裁量に委ねられて居るものと云わなければならぬからであると述べ、本案の答弁として、原告主張の事実中、原告が被告議会の議員であつて、被告議会が昭和二十三年十二月二十五日、地方自治法第百三十四條、宇治町議会会議規則第百四十三條により、原告を宇治町会議員から除名する旨の懲罰の議決をしたことは之を認める。

然しながら、被告議会は、原告主張の行爲に対し、懲罰を科したものではない。原告がその主張の頃、その主張の様な印刷物を三、四十枚宇治町内の一部知人に頒布し、又その後右印刷物と同一内容の掲示を宇治町内の二ケ所にしたので、昭和二十三年十二月二十五日開催せられた被告議会の会議に於て議席十五番新庄義信議員が原告に右印刷物の記事内容につき釈明を求めたところ、原告は右所爲は全く正当のものであるとして讓らず、或は「答弁の限りでない」とか、或は一個別的に法の救済を受けられたい一等と放言して、右釈明に應じなかつたので、会議中に於ける原告の右の様な言動は被告議会の構成員たる議員ひいては被告議会の品位を傷つけ、体面を汚すものであるとして、此言動に対し懲罰を科したのである。又

一、被告が昭和二十三年四月、原告に対し被告議会に一ケ年間出席を停止する旨の議決を爲し、原告が之を不服として右議決取消の訴を京都地方裁判所へ提起したことは、原告主張通りであるが被告議会が懲罰を科した行爲は右の通りであるから、右印刷物の内容其ものは原告主張の懲罰に直接関係はないのであるけれども、右印刷物の内容は原告主張の様に眞実のものでなく、虚構の事実であつて、被告議会の議員を罵りひいては被告議会の体面を汚す様なものである。原告が右印刷物を作成するに至つた目的についての原告の主張は被告に於て不知である。

二、昭和二十三年十二月二十五日開催せられた被告議会の会議に於て右の様に新庄議員の釈明に対し原告の放言あるや議席十一番須知喜一郎議員から原告の新庄議員に対する答弁は宇治町会を侮辱した事は勿論議会の体面を汚すものであるからとて懲罰の動議を提出し原告主張の小島一三、岡田宗太郎議員の賛成を得て動議成立し右の様に懲罰を科するに至つたのであつて懲罰提案理由書の記載は原告主張通りであるけれども、被告議会が懲罰を科した原告の行爲は原告主張の様なものでなく被告主張の前示の様な行爲であるから懲罰提案理由書記載の行爲に対し、懲罰を科したものであつて原告主張の様に懲罰提案理由書記載外の行爲に対し懲罰を科したものではない。

三、地方自治法は、普通地方公共団体の議会に対し、会議規則の制定権を與え、議会從つて又その構成員たる議員の規律保持を各議会の自治に委ねて居るのであつて、議会の構成員である議員が互に品位を保持し、議会の体面を維持せねばならぬ事は当然であり、從つて又議会の構成員たる議員は議場の内外を問わず、右の目的に反する様な行爲をしてはならず、之に反する場合議会が其自治権に基いて違反者に懲罰を科し得る事は勿論であつて、宇治町議会会議規則に於ても之と異なるものではないが、仮に此点は原告主張通り議会又は委員会の会議内の行爲に限るとしても、原告主張の様な行爲に懲罰を科したものでなく、懲罰を科したのは被告主張の前示の様な行爲であるから、此点につき違法なく、從つて又懲罰動議提出の時期についても、原告主張の様な違法はない。

その他右議決を違法なりとして取消さねばならぬ理由はどこにも存在しない。

被告の右主張が何れも理由なく、被告議会の原告に対する懲罰が違法なりとしても、次に述べる理由により、その取消は公共の福祉に適合しないから、行政事件訴訟特例法第十一條により、原告の請求は之を棄却すべきである。即ち

一、前示の様に原告は、被告議会から一ケ年間出席停止の懲罰処分を受けたのに、少しも反省するところなく、右議決取消の訴につき未だ判決が言渡されて居ないのに、原告勝訴の判決が言渡されたと虚僞の事実を前示印刷物に記載して頒布し、以て町民を欺瞞し、被告議会が全く無力軽薄であるものの様な印象を一般町民に與えて公共の福祉を攪乱したものである。

二、加之一般町民は原告の平素の議員としての言動に慊らなく思い居り、又被告議会に於ては、前の出席停止の懲罰の際に於ても、今次の懲罰に於ても全員一致を以て懲罰を議決したことからしても、原告の言動が如何に不穩当であるかゞ想像できる。

三、右の様な次第であるから、若し原告主張の懲罰議決にして取消さるゝ様な事があれば、町行政は再び攪乱せられ拾收できない状態に陷り、地方自治体の運営に著しい齟齬を來し公共の福祉が阻害せられる事明かである。

以上の理由により原告の請求棄却の判決を求める、と述べた。(立証省略)

四、理  由

被告は本案前の答弁として、被告議会がその議員の如何なる行爲に対し除名という懲罰を科するかは、被告議会自体の判断に俟つべきもので、所謂被告議会の自由裁量に委ねられて居るのであるから本件懲罰の適否につき、司法裁判所は、之が審理裁判を爲す権限なき旨主張するので、先づ此点につき判断する。

凡そ法規上如何なる場合に被告議会がその議員を除名し得るかの選択が被告議会自身に委ねられて居る場合には、被告主張の通り議員の除名処分は所謂被告議会の自由裁量であり、自由裁量である以上、その裁量処分の結果が適法なりや違法なりやの問題を生ずることがない。然しながら地方自治法に則り定められた宇治町会会議規則第百四十三條には、「議会を騷かし又は議会の体面を汚し其の情状が特に重い者に対しては出席を停止し又は除名することが出來る」と規定して居るから、被告議会がその議員を除名するには、当該議員の行爲が議会を騷がし又は議会の体面を汚し、その情状が特に重い場合に限るのであつて、法規上如何なる場合に除名するかの選択が被告議会自身に委ねられて居るとは謂えぬ。從つて被告議会がその議員の具体的の行動が議会を騷がし、又は議会の体面を汚し、その情状特に重しとして、之に対し除名という懲罰の議決をした場合その行動が果して右規則第百四十三條に該当するものなりや否やの問題、即ちその処分が適法なりや違法なりやと言う問題が生じ得る。而して行政廳の処分を違法なりとしてその取消を求むるその取消につき司法裁判所に裁判権あること、行政事件訴訟特例法第一條の定むる所であるから、原告を除名した懲罰議決を違法なりとし、その取消を求むる本訴は司法裁判所たる当裁判所に於て審理、裁判を爲す権限があるものと謂わねばならぬ、然らば被告の右本案前の答弁は理由がない。

次に本案について審案する。

原告が被告議会の議員であつて、被告議会が昭和二十三年十二月二十五日地方自治法第百三十四條、宇治町議会々議規則第百四十三條により原告を宇治町会議員から除名する旨の懲罰の議決をしたことは当事者間爭がない。

原告は、被告議会は、原告が昭和二十三年十一月十五日頃「宇治町の皆さんへ」と題する印刷物(判決末尾添付「宇治町の皆さんへ」と題するものと同様の印刷物)を三、四十枚宇治町内の一部の知人に頒布し、又その後右印刷物と同一内容の掲示を宇治町内の二ケ所に爲した行爲は、宇治町議会を侮辱したものなるのみならず、議員を誹謗し、議会の品位を傷け、又議会の体面を汚したものであるとして、右の様な議決をしたのであつて、右議決は違法であるから取消さるべきものであると主張し、被告は原告主張の右の行爲に対し、懲罰を科したものでなく、昭和二十三年十二月二十五日開催せられた被告議会の会議中に原告が爲した言動に対して懲罰を科したものであると爭ふから、先づ此点につき判断するに、本件に顕われた全立証によるも、原告が、原告主張の印刷物頒布や、之と同一内容の掲示をした行爲そのものが、宇治町議会を侮辱し、議員を誹謗し、議会の品位を傷け、又は議会の体面を汚したものであるとして、本件懲罰の議決をしたものとは認められぬ。却つて成立に爭ない甲第一号証の二(懲罰提案理由書)乙第一号証(宇治町議会会議録特に表紙ともで十枚目十一行以下)、証人須知喜一郎、上林種太郎の各証言を綜合すれば即ち原告主張の印刷物の頒布や之と同一内容の掲示をした行爲、会議外に於ける原告の行爲そのものに対し、懲罰を科したものではなく昭和二十三年十二月二十五日開催せられた被告議会の議場に於て右印刷物の頒布や掲示をした行爲に関し、議席十五番新庄義信議員、議席二十番田中武一議員、議席十一番須知喜一郎議員等から爲された質問に対する原告の言動が、議員を侮辱したり、誹謗したものであり、被告議会の品位を傷け、又体面を汚したものであるとして懲罰の議決をしたものなることを認め得る。

而して原告が本件懲罰議決を違法なりと主張する理由は、総て印刷物頒布や掲示をした行爲、即ち議場外の行爲そのものに対し懲罰を科したことを前提とするのであるから、右の様に議場外の行爲に対し懲罰を科したものでなく、議場内に於ける原告の行動に対し懲罰を科したものなること明かな以上、他の点についての判断を俟たず原告の本訴請求は失当なりと謂わねばならぬ、仍て之を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 山口友吉 星智孝 松本保三)

(別紙省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!